2012/02/01

ニューヨーク講演⑦桜沢如一

ニューヨーク講演⑦桜沢如一

幸福の条件

桜沢 翌日行きますと昨日から今日まで二十四時間の間、砂糖はひとかけらも取っていない、といって毎日報告するのですね。それでグングンよくなって来ました。ところで四日目に鼻血がでたというのはそれが最後だったと思うのです。脳溢血なのですね。これが中ででていたら脳溢血なのですね。それが八十六ではもう助かりませんわね。それがここへ出て来たのです。それで助かったのです。

-鼻血はどうして止めますか?

桜沢 あぁそれはね、番茶に量の五パーセントの塩を入れるのです。ちょうどこれだと三本の指で軽くつまんだ位の塩。これで五パーセント。それを鼻から注ぐのです。それで下でクチを開いていると皆下へ出てくる。何も紙を詰めたりする必要は無い。微温湯でいい。塩が止めるのです。愉快でしょうこれ。鼻血を止める方法はいろいろな手がありますけどこれは一番簡単で良い。塩水で良いのだから。

どこにでもありますからね。まぁみなさんもこれから毎日、胡麻塩をほんのひと包みでいいですからポケットにいれておくことです。どこへ行こうと船酔いしたり気分が悪くなったり、腹が痛くなったり、頭痛がしたりしたときにはいつでもそれをちょっとなめるのです。すーっと治りますからやってご覧なさい。頭がいたくなるって事は脳の血液が酸性になったということです。塩をいれるとアルカリ性になるのでいっぺんに消えてしまう。なんでもないことなのです。実に滑稽ですね。お医者さんが一番恐れるのは体の酸性化、血液の酸性化です。ところがお医者さんの勧めるビタミンは全部酸性です。むちゃな話ですね。医学って物は。

-先生、どうして自分の血液が酸性になったと分かるのですか?

桜沢 なんとなく疲れてきて積極性がなくなってくる。思想が悲観的になってくる。どうしても暗いほう寂しいほうばかり考えて、明るい晴れやかな方が考えられなくなる。そういう人がよくいるでしょう?何を言っても「そんなことを言ったって」と言って裏から考える人がいるでしょう。それから手足の先の血液の循環が悪くなって、寒い日など青くなってしまう。これは酸性になった証拠です。とにかく頭痛が一番悪い、頭痛はすべて血液が酸性になっている証拠です。

-先生、風邪を引くのは血液が酸性になっているということですか?

桜沢 そうです。酸性でない人はかかりません。絶対かからない。私は四十八年間・・・その前は死んでいたのですからね。十六、十八のとき、喀血ばかりして三つ大きな空洞があってね。私の母親は三十歳で死んだのですよ。私が十になったばかりでした。父親は私が五つのときに行方不明になった。私は天竜院に門前で行き倒れの女が産み落とした子なんです。ところが私は十のときから自活をしました。弟一人と妹二人を養ってね。母親は結核で死に弟妹も皆死んで私一人残った。この世でたった独り。ところが十六から結核。三年間吐き続けました。それでいよいよだめだと思いました。京都大学で親切なお医者さんがただで診てくれましたがね。そのうえ、胃が胃拡張で胃潰瘍で胃下垂。腸が腸結核で痔がある。

心臓が生まれつき小さくてガタッといっても具合が悪くなる。頭は禿頭病になってね。耳は中耳炎で目は近視で乱視でトラホーム。私がしなかった病気は婦人科だけです。それが治ったんですよ。それ以来、こういう講習などやっているときは、いつでも二十時間から二十二時間働きます。二時間ぐらしか寝ません。だから私の一生は普通の人の三倍から五倍生きたことになる。そんなわけで胡麻塩さえ取っていれば絶対心配いりません。一日ひとつまみ、ちょっとご飯にかけるだけで良いのです。胡麻塩というのは八十パーセントの胡麻と二十パーセントの塩ですよ。だからひと匙お取りになっても一グラムしか入ってないのです。血液が酸性になっていると人間はだめなのです。甘いものは一番きつい。その次は肉食です。動物性は全部酸性です。それから酸性で強い物、リンゴだのミカンだのスイカだの果物類がひどいですね。

まぁとにかく一番恐ろしいのは砂糖です。それから肉食。これが血液を酸性にする。わたしの知っているお医者さんで三十年間毎日クシャミをし続けている人がいます。第三高等学校の時からクシャミばかりしていて「あぁクシャミが来た」と看護婦などから言われてね。ところが四十何歳ぐらいの時にわたしの話をきいた。翌日からクシャミが止まってしまった。今でも生きていますよ。長崎の原子爆弾のとき、カトリック教の病院を守ったのはこの人です。この病院では一人も原子爆弾ではなくなっていません。町では十何万人殺されていますけれどね。真ん中にあった病院では一人も死んでいない。これ、塩のお陰です。

-クシャミも胡麻塩で治せるのですか?

桜沢 おもしろいでしょう?

-塩はテーブルソルトやなにか?

桜沢 海の塩が一番良い。海の水、粗塩が一番良い。だから伊勢の大神宮などの神様に供える塩は別のところからとって使ったのです。決して買った物ではない。

-ところで先生、西洋人は比較的日本人よりも砂糖を多く使いますし、そのうえ肉食を多くしますが・・・その割には死亡率が少ない・・・あるいは病気も・・・

桜沢 それはまぁ多くし過ぎて死ぬべき人を殺さないでおる。だからそういう人は生きていても甲斐のない人なのです。幸福でない人なのです。アメリカは廃人が非常に多いですからね。とにかく六〇〇万人の精神病者が入っているのですからね。世界中で一年に約九十万人が心臓病で死んでいる。そのうち四十五万人はアメリカで死ぬのです。ほかの国では二十万ぐらいなのです。だから余程ここではこれを注意しなくてはならない。これからとにかく全ての病気を吹き飛ばす方法を教えますから心配しないで。

-先生、私ここまで歩いてくるのがとても辛いのですが体の変わり目でしょうか?

桜沢 変わり目ですね、貴方のは。とにかく今日までの旧体勢を全部一掃してしまうのですよ。つまり八兆億ある人間の体の細胞を全部手術しているのです。入れ替えているのです。だからちょっと十日程つづきますね

-反動は起きることはあるのですか?

桜沢 たまにありますね。今日は二つ大問題がある。これは皆さんに答えてもらわなくてはいけないのです。ゆうべ、例によってたくさん来ていらっしゃったですが、その中に一人弁護士がいました。ミスターシンガーというアメリカ人です。この人は私が一月ぐらい前に会ったのですが「こいつは悪い奴だ」と思ったのです。ここに瘤があるのです。ただの肉ではないのですよ。骨が突起しているのです。ピラミッドみたいにね。それで「これをどうしたらいいか」というのです。あまり態度が生意気だったので「君ね、神様が分かったら治るだろう」といったのです。そしたら「神様って何だ」ってな訳で食ってかかってくるのです。

「そりゃ君、教会かお寺でも行って聞きなさい。それが分かったら僕が教えてあげる」分からないですよ。法律家というのは絶対神様を知りませんからね。そこのハワイの高等法院の裁判官で非常に有名なジャッキーハルと言う人ですが、この人がライフで四ページばかりの大きな論文を出して「私は一生をジャスティスとして過ごしたけれどもジャスティスとは何であるかを知りません」とこう言っていました。僕はそれを見てびっくりしました。よくこんな奴が裁判官になっていたなと思ってね。ただ、法律書に書いてあるとおりにやるのです。情状酌量なしです。こんな人がありますからね。

ロイヤーというのは大体だめなのです。私の一番嫌いなのは医者に役者に芸者に新聞記者。それから裁判官。こういうのは嫌いなのですがその裁判官だけは別です。友達から聞きましたよ。十一時になって偉いことを言いだした。「貴方はペテン師だ」といったのです。「貴方の言っていることは全て貴方の催眠術だ。全ての人に判断力をもてと言いながら、実は貴方は貴方の判断力を皆に注射している」・・・私は生まれて初めてこんなことを言われた。特にアメリカに来て初めて言われたのですがね。なるほどおもしろいことを言うものだと思いましたね。

どうでしょうか、私がここへ来て以来どこの講演ででも、絶対に私の判断力を皆さんに強いたことはないのです。皆さんがそう取っていらっしゃるのかも知れませんがね。私は皆さんにもし教えることがあるとすれば、ただ陰と陽という言葉だけです。これは陰ですか陽ですか、考えてご自身がお決めになったら良いでしょぅ。絶対に私の考えをみんなに強いることはないですね。そういう問題を皆さんがちょっとでもそういうふうに思っていらっしゃるところがあるなら、ぜひそれを言っていただきたい。

今後一億七千万人を相手に一人で戦うのですからね。もしこちらに過ちがあったり、過ちと取られるようなエキスプレッションがあったら我々の間で教えていただきたい。それからもう一つは、これはあまり大した問題ではないがアメリカでは医者でない限り医学の本を売ることができない。そういう法律があるのです。

-戦争直後に日本の親戚の医者がある本を買ってくれといって来たことがありますが、買いに行ったのですが売ってくれるようでしたよ。あまり高いのでやめたのですが。

桜沢 それは医者が書いた本ですか?

-そうでしょうな

桜沢 医者の書いた本は売れるのです。

-だれが書いた本がだめなのですか?

桜沢 医者でないものが書いた本はだめなのです。

-それは普通の人には売れないのですか?

桜沢 図書館でも医学書は一般人は見れないことになっている。ここには五十四丁目にたったひとつ医学ライブラリーというのがあってそこでなら見られる。どうです関さん、そういうことをお聞きになったことがありますか?そうすると聖書が売れなくなってしまう。聖書には病人を治した話しがたくさん出て来ますからね。これ売ってはいけないなんてね。ところがこれはもうベストセラーの中のベストセラーですからね。

-でもあれは医者の発行ではないですよね。

桜沢 もちろん。聖書会社の発行ですね。どちらにしても医学書を一般人が書いたり読んだりすることは許されない。やっぱり「医学的なもの」というのは漠然たる定義だろうと思うのですが特に治療に関することを言うのでしょうね。そうなるとタイムなんかに毎週医学欄というのがあってそこにでていますがね。これはもっともタイムの医学欄でなしに、お医者さんに医学を紹介するのですからまぁいいかもしれません。いずれにしろ一般書店では売れない。医学書店でないと売れない。

-よくドラッグストアのようなところに行くといろんなのを売っていますが・・・。

桜沢 それは通俗的なものでね。そして医者の書いたものでしょう。いっぺんそれ、君のほうの弁護士に聞いてみておいてちょうだい。それはまぁいいとして、そんなことは問題じゃないのですから。とにかく私が貴方がたに二五〇〇年来の、或いは東洋五〇〇〇年来の哲学をもって来てご紹介しているのです。私の発明した物は何もありませんよ。ただお釈迦さんや東洋の聖者やそういう人の説を受け売りしているだけなのです。ここで皆さんにはっきりと覚えていただきたいのは、陰と陽という言葉です。

これはまだ説明しませんね。しましたか-ちょっとしかけました。色はやりましたね。紫、オレンジ、イエロー、グリーン、ブルー・・・これにしたところでですね、この判断は私が押し付けた訳じゃないのですよ。皆に聞いたのです、一番陽気ないろはなんですか?そして赤が一番陽気だとね。一番陰気なのは紫だとね。何にも私が押し付けたのではない。その次に今度は水気が多いのと少ないの。水気ですね。H2O。この水って物は陰気なものですか陽気なものですか?

-陰気。

桜沢 陰気。うーん。あなたは?

-陽気でしょうね。-の中から出てくるから陽気ですな。
桜沢 ハハハ・・・あなたは?雨の降っている日と天気の日とどっちが陽気ですか?

-それは天気の日です。

桜沢 雨の降っている日はみんなリューマチの人は痛みます。前の日から痛みます。陰気なものですよ。水が溜まって青々としている中にいってご覧なさい。なんかぞーっとして寂しくなりますよ。青い淵をのぞき込むとね。水の浅いところでちゃぷちゃぷやっているときは陽気ですから。深い真っ青な深遠に望むと人間は滅入って来ます。

これは私が押し付ける訳でなく皆同意されるでしょう?水が多ければ多いほど陰性になる。人間、死んでしまうとぼろぼろに腐って分解して流れてなくなってしまう。水気が少ないほど陽性なのです。今度は塩気はどうですかね。塩気は陰性ですか陽性ですか?ぴりっと辛い、塩辛い。

-私は陽性だと思います。

桜沢 私は何にも教えないんですからね。皆さんのなにを聞いているんですからね。どうですミセス関。

-陽性に近い・・・

桜沢 陽性。はぁ。このお料理を見て分かるでしょう。お料理に塩がなかったら食えたものじゃない。お料理がおいしいってことは塩味なんです。だから昔から塩梅っていいますね。塩の使い方がまずいか上手いかによって料理の善し悪しが決まる。塩は水の反対です。水が多いほど塩が少なくなり、塩が多いほど水が少なくなる。

ちょうど反対です。塩が多いほど陽性で少ないほど陰性です。例えばオイサキさんみたいに目が悪くなる鼻が悪くなる尻が悪くなるなど、皆塩が足りないからなんです。魚など塩をうんとしておいてご覧なさい。割れ木のように堅くなっても腐りゃしません。塩が薄いとすぐ腐ってしまう。それで仕様(シオ)がないという。人間の血液の中で一番必要なものは塩なのです。だから血潮という。塩気がなかったら人間は腐ってしまう。塩気があれば絶対にばい菌が入って来ない。どんなばい菌も入って来ないこれはよく覚えていてください。どんなばい菌でも塩気がちょっと入ると皆死んでしまう。

こういう試験皿の中にロッカクロムを溶かして入れ、そこへスピロヘータ、梅毒の菌をいれるので。何万何千といれるのです。ロッカクロムの中なのに死なない。ただそこへ血液を一滴落とすと皆死んでしまう。血液の中にロッカクロムが入れば、ばい菌を殺せるのですが、血液がない場合には効かない。おもしろいものですね。結核菌なんてのはどこにでもいるものなんですが、塩をちょっとかけたら死んでしまう。実に弱いものなのです。

-太陽とどちらが良いのですか、結核菌を殺すのには。

桜沢 それは塩のほうがきついですね。太陽が無くっても塩で殺せますが、太陽があっても水気が多い場合はなかなか死にませんからね。塩が必要なんです。どんな病気でも心配することはない。塩気がきいておればね。

-高血圧に塩気はどうなんですか?

桜沢 医者は禁じていますね。だから治った人がないでしょう?高血圧の治った人がいますかね?一人もいないでしょう。今一番大きな最大の死亡者は高血圧から来ているのです。治す方法を知らないからです。私のこの方法をやってご覧なさい。高血圧ならたいて二週間、早いときは三日。この前、去年の七月八月の二日間、私の東洋哲学キャンピングをやったのです。世界中の人が集まって来ました。アメリカからも二、三人来ました。

ブラジル、パキスタン、インドからもね。三千二、三百人集まりました。毎日のお料理は家内が作りました。京都大学の教授で川端博士という偉い人がやって来て「いっぺん皆の健康を見せてくれ」といって毎日身体検査をやった。そうしたら二日目にその川端教授が「これは恐ろしい、僕はもう帰ります」というのです。「どうしたのですか」と聞くと、もう皆高血圧だというのです。いつ死ぬかも分からない、こんなところに居たら忙しくなるからかなわない。ということなのです。そこで私は「まぁまぁ二、三日の間勘弁してくれ」といった。

三日目に先生が飛んできて「不思議なことが起こりました。皆血圧がどんどん下がり出した。これはいったいどういう訳だ。ぜひこれは終わりまでいます」といってとうとう終わりまで居ましてロンドンへ行くのを延ばして、帰ったら日本の学会でこれを発表しようと言ってね。このお医者さんは戦争中、日本のお医者さんで五人、軍部が絶対手を出すことのできないお医者さんでした。あんまり偉くてもったいないからね。その一人です。それで、この名前はひとつ覚えておいてください。ケントル教授、フランス人です。今から二十年ばかり前に死にました。この人は三十年間ソルボンヌ大学の教授をしている間中、海の生物学の教授ですが、海の水を研究していた。

一生かかってごつい「海の水」という本を著しました。「ウォーターオブシー」アメリカにないでしょうかねこの翻訳が。世界的に有名な本なのです。皆さんの中でこういう説をご存知ですか?全ての地上の生物は大昔海からやって来たものである。どうです、聞いたことがありますか?

-聞いたことはあります。

桜沢 その説はこの人が言い出したのです。それはなぜかというと、どんな生物でも血液を調べてみると全て海の水と同じ組成をもっている。だからどうしても海からきたとしか思えない。ただしそれに濃淡はある。その薄いのはまだ地球が大昔で海の水が十分蒸発していないで創成期のすぐ後でできたような海ですね、それがどんどん濃縮されて塩分が濃くなった。今から五億年ほど前に最大限に達している。それから後はあまり変わらない。その時分に出て来たものが一番血液が濃いこういう大胆な説を立てたのです。

それからそれを立証するために一生かかったのですからえらい医者ですね。私の言ってる通りのことを科学的に立証してくれている。私はあったことはないですよ、もう二十年も前に死んでいるのですからね。この人は塩の組成を証明するために色々な動物実験をやった。例えばぼろぼろに老いさらばえた十五、六歳の犬、もう目も見えなくなって手足が変わっているような犬。それから若々し二、三歳の犬、その二匹を使って両方とも血液をすっかり出してしまう。そして海の海水を替わりに入れる。

そうすると若いほうの犬はぴんぴんしてちっとも以前と変わらないが年を取ったほうは二、三日動かない。それが俄然起き上がると若いほうより今度は強い。若返り法ですね。そんなことの何百という実験をしている。それがこんな本になっています。驚いたでしょう。血液を全部塩水と取り替えたほうが若返るというのです。それから今度は色んなばい菌を注射しています。塩気を入れておけば、ばい菌は皆死んでしまうから病気が大きくならない。海の水にばい菌がいますか?絶対にいないでしょう?丘から人間や大便や小水や工場の排水などいろいろなものを朝から晩まで流し込むのでしょう?

(つづく)
199410月号No.685